わたしは夕菜。アラフォーの人妻で某企業の総合職として働いている。
家庭は円満な方だと思う。夫との仲も良い。ただし、夫側に事情があってもうかなり長い間セックスしていない。
だから、セックスに関しては婚外でなんとかすることにしている。出来れば常に複数のお相手がいて、楽しくて重くないお付き合いが理想のカタチと思ってる。
シンプルに表現すると自由気ままな不倫妻、ということになるのかな。
これが世間的に見て良いか悪いかについてはさておき、このスタイルに辿り着くまで様々な葛藤があった。
今回はそんな葛藤と、わたしが外で男を求めるようになった経緯についてお話しようと思う。

わたし達は恋をして結婚した。付き合っている時や結婚当初はセックスも人並みにしていた。だけど夫が性的欲求の薄い人だということは、最初から肌で感じていた。
そして月日が流れ、冒頭で話した事情があってわたしたちは99パーセントのセックスレス夫婦となった。100パーセントではなく99パーセントなのは、必要であれば行為を行うこと自体は可能だから。
まあでも、きっともうすることはないんじゃないかなってわたしは思ってる。もしかしたら何年かに一回ぐらいは、どちらかの気まぐれですることはあるかもしれないけど。
どちらにせよそんなレベルで、かなり末期のセックスレス夫婦なのである。
「俺、夕菜を満足させてやれない。だからストレスを溜めないよう上手くやって。」
ずいぶん前、一度だけ夫にこんな感じのことを言われたことがある。
その時は冗談っぽく言われたからあまり気にしなかったのだけど、よくよく考えてみればあの時のこのセリフは『家庭に持ち込まなければセックスの外注オッケー』という意味だったのかなあと解釈している。
けれどその頃のわたしはとても真面目で『不倫なんて絶対ダメ!』と頑なに受け入れようとはしなかった。
そのまま女としての自分が枯れていくと分かっていても『世の中の夫婦はみんなそんなものだろうし、それが普通なんだ』と良く分からない理論で自分を納得させていた。
不倫を拒んでいたのにはもう一つ理由があって、わたしは昔風俗で働いていた。
エステ、ヘルス、ソープ、M性感。
ライトなものからガッツリなものまで、一通り経験したという謎の自信がある。
風俗はトータルすると7年近くやっていたかな。専業ではなく会社の副業として働いていたので、経歴書上はずっと会社勤めをしていたことになっている。
もちろん、夫はわたしが風俗で働いていたことは何も知らない。
そう、で、話が逸れちゃったけど、風俗でうんざりするほど性的な経験をしたから、さすがにもうこれ以上の経験を積まなくても良いのかなって当時は思ってた。
そう思っていた筈なんだけど…なんということか、歳を取るにつれて普通に性欲が増してきてしまったのだ。
よく『女性は歳を取ってから性欲が増す』と言うけど、アレは本当だと思う。風俗で働いていた20代の頃はセックスに対してどこか冷めた気持ちを持っていた。
それなのに、アラフォーになってからはなんかしょっちゅうしたい波が押し寄せるようになった。これってわたしだけなのかな?
そんな訳で、元風俗嬢のよく分からない謎の余裕も泡のように消えていった。
そしてこれからお話する決定的な出来事があって、わたしは不倫への第一歩を踏み出すことになるのだった。
身近な人が亡くなった。
事故や病気ではなく寿命を全うしての逝去だったから、決して不幸な旅立ちではない。
でも、ほんの直前まで元気な姿を見ていたせいか、とてもショックでとても悲しかった。
初めて身近な人の死を経験し『人っていつか死ぬんだ』ということを初めてリアルに実感した。
それと同時に『わたしはこれから大切な人達を順番に看取っていかなきゃいけないんだ』という重い現実に気がついてしまった。
自分の親と夫の親。そして夫。
わたし達夫婦には子供がいない。だからもし夫が先に旅立てば、最後はわたしだけが取り残されて独りぼっちになるのだろう。
大切な人を看取るだけでもとても辛いのに、更にその後は誰にも看取ってもらえず独りで逝くことになる。
それはとっくに分かっていたはずなのに、能天気なわたしは何も理解していなかった。この歳になって身近な人の死を経験して、ようやくその事実を認識して打ちのめされたのだった。
人生って過酷だよね。
ただ平和に過ごしたいだけなのに、大切な人の死を何度も迎えなきゃいけないなんて。もはや生きること自体が修行だと思えてくるよね。
それからしばらくの間、ずっとふさぎ込んで人生について考えていた。
わたしは人生は自分の手でどうにでも切り開けると思っている。実際、そんなに恵まれた生い立ちではなかったけれど、自分の努力と周り人達の助けがあって今の幸せをつかみとってきた。
ただ、この看取り問題だけは別だ。生きている以上、どれだけ願ってもどれだけ努力しても決して変えることが出来ない当たり前のこと。
それが人の寿命なのだ。
どうしようもないことなら覚悟を決めて受け入れるしかない。
わたしは親と夫に恵まれた。たくさんの恩がある。だから大切な人達をこれからの人生をかけてしっかり看取ることがわたしの使命。
嫌だし恐いけど、それが運命ならちゃんと頑張るしかない。
けどせめて、その途中で少し位ご褒美があったっていいよね?
これからたくさん辛い思いをして、いつかは自分も死んでゆく。
それなら生きている間に嬉しいことや楽しいことを享受する権利だってある筈だよね?そう、これから頑張るにはそのためのエネルギーが必要なんだ。
それにやっぱり一度きりの人生、楽しく生きないともったいないもんね。
根がポジティブなわたし。こんな風に考えることで、ようやく元気が戻ってきた。
少しでも若いうちに女を楽しむ。それはきっと、今のわたしに必要なことだったんだね。
こうしてわたしは立ち直った。
立ち直ってからのわたしは、生まれ変わったように外でのセックスや恋愛を楽しめるようになった。
ただし、一番大切なものは家庭。このルールだけはしっかり守るようにしている。
どんなに好きになっても不倫はあくまで不倫。家庭を円満にして人生に彩りを与えるためのスパイスに過ぎない。いつか終わる恋だからこそ、その瞬間を大切にして心に刻みつけてゆけるのだろう。
そして十分に女を堪能した後は夫と添い遂げ、責任を持って家族全員を看取るのがわたしの使命。
だからその時まで、一度きりのこの人生を後悔しないよう全力で謳歌しよう。
こうして、らいおん奥さんたるわたしの自由な恋の物語がスタートしたのだった。